鴨の炭火ロースト。千葉の冬の風土食を味わう

グルメ

コース料理もいよいよ佳境に差し掛かるというタイミング。テーブルで料理に舌鼓を打っていた人たちの熱い視線が、打矢シェフの持つトングの先に注がれる。

シェフの手によって炭火の焼き網の上に、次々と肉が並べられていく。その照りのある脂と香ばしい匂いをまとった表情に、俄然期待が高まるのだった。

●炭火ローストで味わう「千葉県山武産天然網捕り鴨」

千葉県産の鴨を炭火でローストする。なお、写真奥の肉はUshimaru名物、ジャージー牛の肉

炭火のロースト香を手繰りながら、ゆっくりと咀嚼すると、濃厚なうま味がぐっと押し寄せて来る。それでいてクセがなく、風味の余韻すら雅致に富んだ刹那の時を演出する。

鴨肉に季節の野菜を添えて

ジビエ…というと、肉が硬かったり、独特の臭みが気になる。そんなイメージを見事に覆してくれるひと皿。信頼のおける猟師が手際よく適切な処理をしたマガモとコガモの炭火焼きは、Ushimaru自慢の冬の味覚である。

「燻された香りが鴨の臭みを和らげて、ほどよく脂も落ちて。やっぱり鴨は炭火がいいですね」

そう打矢シェフは語る。

●野生の鴨は千葉の風土食


千葉県の食文化を聞き書きによりまとめた名著『日本食生活全集 千葉の食事』(農山漁村文化協会刊)を紐解くと、古くから利根川流域地域を中心に、鴨猟が盛んに行われていたことをうかがい知ることができる。

今から30〜40年ほど前には一般家庭でも、鴨は鉄火飯や煮付け、鍋料理として食べられており、手賀沼近くの親戚から冬に届けられる鴨肉について『脂がのった鴨はこくがあって格別の味わいがあり』とする記録も残されている。

Ushimaruの周辺地域も水田が広がっており、現在も鴨猟が行われている。特に、銚子市の南方に位置する旭市の鴨料理は「千葉の魅力500選」にも選ばれ、鴨料理の専門店もあるほど。実は、鴨は千葉県の風土食なのである。

一羽一羽、丁寧に毛をむしっていく

打矢シェフは鴨猟が解禁になるのを見計らって、付き合いのある猟師たちから野生のマガモやコガモを仕入れる。

「猟師の人たちは11月上旬頃からくず米を田んぼに撒いて、鴨をおびき寄せつつ、脂をのせるんです。渡って来た鴨はそのままだと痩せてますからね。そうして猟が解禁になったら一気に捕るんです」

羽毛をむしり取った状態。「今季の鴨は脂がのってますね」と、作業を担当した前田さん

猟が解禁されるのは毎年11月中旬から翌2月中旬まで。鴨料理は猟期の間に食べられる冬季限定のメニューであり、Ushimaru冬の風物詩の一つでもある。

●網捕りの鴨を活用する

この後、内臓を取り出し下ごしらえ

「うちの鴨料理は炭火というのもポイントなんですが、『網で捕った鴨であること』が重要なんです」

と、打矢シェフは強調する。

「鉄砲ですと、当たりどころがまずいと良くないんです。傷口からどんどん酸化して傷むんですね。ですので、うちで使うのは網で捕った鴨です。網で捕まえたら窒息させます。そうすると肉の状態もきれいで、身体に血が回るので濃い味になるんですね」

あのひと皿の美味しさは、狩るところから炭火で焼き上げるところまで、猟と料理、それぞれ培われてきた技術が一体となって完成されたものなのであった。そしてその食文化を育む千葉の大地と命の恵みに、改めて感謝したいと思う。

●打矢健(うちやけん)プロフィール

打矢シェフが次々と鴨を捌いていく

1977年生まれ。新潟県出身。東京都内、軽井沢で経験を重ねたのち、2008年より「Restaurant Ushimaru」で働き始める。キノコはもちろん、魚介や野菜、ジビエに至るまで、自ら千葉県産食材を手がける生産者と向き合い、その熱量を料理に込める。

ブログで「打矢シェフの食材日誌」を更新中
http://chef.ushimaru.biz

「取材・文・写真:暮ラシカルデザイン編集室 沼尻亙司」

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